- 2017.01.25
写真家/ビジュアルアーティストNozomi Teranishi
SHOOTING編集長の坂田がキュレーターの一人として活動している東京・馬喰町の「KanZan Gallery」。 その「KanZan Gallery」にて、2017年2月と3月に坂田がキュレーションする写真家にインタビューを実施。一人目は、2月4日から開催するNozomi Teranishiさん。実家の福島で震災を経験後、渡米。その後福島へと戻り、20代半ばにして多数の作品を発表している。彼女が作品を制作し続けるルーツから現在までを訊いた。
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)
寺西さんを知ったきっかけは、雑誌「IMA」Vol.17の特集「ランドスケープは問いかける」でした。なんてエネルギッシュな作品なんだろうと目を奪われました。いつから創作活動を始められたのですか。
多くの作品は写真がベースになっていますが、特に写真学校を卒業したわけではありません。写真をちゃんと勉強しよう、毎日のように撮ろう!と思ったのは、2012年の冬の日でした。
私は当時、秋田の大学に通っていたのですが、寒い中、部屋で寝ていた時に、「写真を撮れ」というお告げがあったんです(笑)。へんな話に聞こえるかもしれませんが、「人の写真を撮れ」という言葉でした。
それまでは、ちゃんとしたカメラも持っていなかったので何のことかよくわかりませんでしたが、とにかく大学の友達にモデルをしてもらいポートレートを撮り始めました。
2013年からの1年間、NYの大学に交換留学生として渡米した時も、人の写真を継続して撮り続けました。独学ではありましたが、「とにかく写真を撮っていく」ということだけを決め、写真を撮らせてもらうことで勉強をし、経験を積んでいきました。
秋田の大学では写真ではなくビジネスを勉強していたので、留学から戻ってきてからの1年間は、大学を卒業するための勉強に集中しました。
寺西さん。
NYは卒業後ではなく、3年生の時に留学で行かれていたんですね。
はい。NY留学中は人物のポートレートを撮影していました。人物のポートレートではない写真を使った作品を制作し始めたのは、2015年に秋田の大学を卒業してからです。
震災後の4年間は福島から離れて生活していましたが、秋田にいる時もNYにいる時も、震災の情景が頭に浮かぶことがありました。卒業後、福島に戻ると、4年経っても放射線汚染土がそのまま積み残され、放射線量を測るメーターも公園に設置されたまま。子供達も昔ほど外で遊ばなくなっている状況がありました。
それを見ていて、自分が続けてきた写真でポートレートとは違うものを表現したいと思うようになりました。考えるより「気付いたら手を動かしていた」という感じです。震災のことを地元で考えていた時に、建物のコラージュの作品が出来上がって、そこから自分の問題と向き合う表現が始まり、2015〜16年は心の中に浮かぶ疑問や問題を、写真や映像という視覚表現を通じて解消していく作業を続けました。
Webサイトにもたくさん作品を出していますが、制作期間は短いのですね。
そうですね。2015年の3月に卒業したので、そこからですね。
「The Regeneration of Complex Societies」から。
「The Regeneration of Complex Societies(複雑な社会の再構築)」の元になっている写真は、卒業前から撮り溜めていたものですか。
NYやハワイで撮った写真もありますが、基本的には福島に戻ってきてから撮影したり、撮り直したりしたものをベースにしています。今までの制作物の中では、このシリーズに最も時間がかかっています。
Photoshopを使われているんですね。
はい。1点を除き、あとは全て1枚の写真の中でパーツを選択して「コピー/ペースト」を繰り返して制作しています。そのため、質感はリアルな写真そのものです。
影響されたアーティストはいるのですか。
特にそういう人はいません。影響されたといえば、それは私自身の体験だと思います。福島を離れ秋田やNYにいても、震災時に目にした、屋根や瓦がバラバラと崩れていく様子が、その街の中の風景に重なって見えてしまう瞬間があったんです。でも「そういうイメージは自分が心の中で作り出しているだけだ」ということを確認したくて、それを形にしたのだと思います。
このシリーズを作り出して心の変化はありましたか。
自分自身で創りだしていた恐れや悲しみを、意識化し手放すことができたと感じています。
人に見て頂くというよりは、私の個人的な問題に立ち向かうためのアウトプットとして自分のために作ったものですが、次第に「もしかしたら誰かの希望にもつながるのではないか」と、制作や展示にも力をいれるようになりました。
次に向かうための必要なステップだったのでしょうね。
最初は「人工物の掛け算」のような形で作り始めましたが、最後の方になっていくと緑が入ってきたり、「自然物での掛け算」という作品も作っています。
普段、人間の手の加わらないものを自然と呼んでいますが、極論では都市も人工物も地球上にある物質から成り立っている。都会でも僻地でも、皆それぞれが呼吸しやすい場所でいきていくのが、その人にとって自然であると解釈し、人工物やネイチャーというカテゴライズは意識の中でなくなっていきました。
「Grave of the Images」から。
「Grave of the Images(イメージの墓)」について教えてください。
このシリーズは1枚のポートレート写真をもとに制作しています。
昨年(2016年)は、一昨年よりも作品づくりに集中する中で、自分自身の中に浮かぶ様々なイメージに触れ、また、日常生活の中でたくさんのビジュアルや写真に多く触れる中で、イメージが私の中に波のように入ってきたり引いたりすることを体感しました。自分の生活がイメージに引っ張られてしまう時があったり、目の前の大切なものが薄れていってしまう瞬間を感じたりしました。
大切な人たちと過ごす時間は、自分の中ではかけがえのない瞬間で、そういうものを見失わないように、自分にとって大切な人のポートレートの上にピクセル状にイメージを積み重ねたシリーズが「Grave of the Images」です。このシリーズを制作することによって、イメージの海に飲み込まれず、泳がされず、自分の見たい像を自分で作る決意ができました。
こちらは直線的なアレンジになっていますね。
「The Regeneration of Complex Societies」は、パーツを一つずつ切り抜いて重ねているので、1作品を作るのに2〜3ヵ月かかっていましたが「Grave of the Images」は、Photoshopの変形ツールを使ってレイヤーを重ねているため、制作期間は少し短いです。
ただ、イメージとの関わり方を考える上で、レイヤーをたくさん重ねることは自分の中で大切な工程でした。ですから、レイヤーを何十、何百という感じで重ねて作っています。
デジタルカメラやPhotoshopは今や一般的なツールですが、表現したいものがあれば有効に使えるということを、改めて感じました。
撮影された被写体の人たちも、まさか「自分がこう見られている」とは思わなかったでしょうね。
昨年5月に、東京で展示をしたのですが、観に来てくれた友達も、実際に写っている友達もびっくりしていました(笑)。
2016年「Nozomi Teranishi 個展 "Grave of the Images"」展示風景。
この二つのシリーズは、自分の中でどうしても表現せずにはいられない、と思って作ったものです。「写真作品じゃない」と思われる方もいると思いますが、そういうことではなく、「自分との対話」ができるのも、デジタル写真ならではの面白さだと思います。
自己の問題、社会の問題と向き合いたいという時に、絵や音楽や様々な表現方法がある中で、なぜ自分は写真を選択したのかと考えたら、写真は生活そのままを切り取れるというか、デジカメや携帯でいつでも写真が撮れるほど、生活に密着していますよね。自分に近い存在というか、共通言語としての役割もあると思います。「問題の質感」をそのまま扱えるのがいいんです。
「Drops」より。
「Drops」について教えてください。
これも他の作品と並行して制作していました。「1作品」は1枚の写真からアレンジしています。どこからどこまでが写真なのか、と聞かれても困るのですが(笑)。
元の被写体は風景ですか。
風景もあれば、人が4人くらい写っているものを加工している作品もあります。これもPhotoshop上で、一つのレイヤーに対して何回もフィルターをかけて、それを重ねています。色味はそんなに大きくは変えていないです。
このシリーズでは、デジタルの写真(画像)を扱うけれど、自然物の質感を出してみたかったんです。ヌメっとしたコケの感じとか、ザラザラした石とか岩のような感じとか。過程としては彫刻っぽいところもあります。レイヤーを重ねては削ったり、少し加えたりを繰り返して作業しています。
写真は対象を撮りますが、寺西さんの作品の場合それはベースであって、作品への昇華の過程で絵を描く感覚に近い気がします。
完成している作品は、自分の中では自然物なのですが、元の写真が都市や人工物であっても、それすらも自然である、ということが伝えたかった。元々人間が加工しているものも、金属や石油や自然界に存在するものを使っているので、そういう境界線を意識の中から消していますし、この作品が絵でも写真でもどちらでもよいことなんです。
活動を始めたきっかけは「人と人」「人と自然」を繋げたいと思っていました。その時の自然というのは山や川などの自然を指していましたが、今は人それぞれの自然感があって「境界をとりはらう」というのが大きなテーマになっています。
今後はどのように活動していかれますか。
今は2月からの展示をどのようにしていくかを集中して考えています(インタビューは2016年12月)。
作品はまず画面上で作りますが、展覧会は「出現させること」なので形にして見せるための作業に時間が必要ですし、会場では映像作品も出します。そちらもまだ制作中です(笑)。是非会場に足を運んで、見て感じて頂ければ嬉しいです。
トークイベントも予定していますし、オリジナル作品をぜひ会場で見て頂きたいですね。ありがとうございました。
Nozomi Teranishi個展「Bloom/Scatter --人・都市・自然--」
会場:KanZan Gallery
会期:2017年2月4日〜2月28日
住所:東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル2F
トークショー:2月18日/16:00〜(事前申し込み不要)
URL:http://www.kanzan-g.jp/
Nozomi Teranishi 写真家/ビジュアルアーティスト
1991年福島県生まれ。国際教養大学卒。2013年、ニューヨーク州立大学留学時に「人と人、人と自然をつなぐ視覚表現」を目指し写真を始める。東日本大震災や現代社会の生活における問題を題材とした写真・動画作品を多数発表。日本で個展を開催するほか、海外のアートフェアに参加するなど精力的に作品を発表している。2016年「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD#6」名和晃平賞受賞。
http://www.nozomiteranishi.com
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